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20200316 Whiteboard Conference

  • 執筆者の写真: Hajime
    Hajime
  • 2020年3月16日
  • 読了時間: 3分

50代女性,意識障害


もともと統合失調症があり幻覚・幻聴はあるが,日常生活は普通に送っていた方.

当日18時,夫が帰宅したところ大声で騒いでいるところを発見され救急外来を受診.四肢の動かしにくさはなく,ばたばたと動かしている.


聞くと1ヶ月ほど前から一過性に呂律が回らなくなり数時間で改善するというエピソードがあり救急外来や神経内科の外来を受診しているが,頭部CT, MRIで異常を認めず,一過性脳虚血発作の疑いとしてアスピリンの処方を受けていた.しかしその後も同様のエピソードを繰り返していたという.


統合失調症で抗精神病薬を処方されている他,やはり1ヶ月ほど前に転倒し打撲,ロキソプロフェンを頓用で処方されている.




Key Word:一過性・発作性の構音障害のエピソードが先行する急性の意識障害




本日は見学の学生さんも大勢参加してくれました.

研修医の先生や学生さんからは,外傷後ということで慢性硬膜下血腫,急性の意識障害から脳炎,薬物中毒などが挙がりましたが…


たしかに今回のエピソードだけ捉えると急性経過ですが,その前に一過性の構音障害のエピソードを繰り返しており,これも一連のものと捉えるべきでしょう.

さらにこの症例の最大の特徴は「発作的で,症状を繰り返しているが間欠期は普段通りに改善する」点にありました.

したがって経過が1ヶ月だからといって「亜急性の意識障害」とまとめてしまうと方向性を誤ることになります.

少なくとも炎症性の病態は考えにくく,てんかんなどの機能性疾患,アレルギーなどが病態として考えられます.


こういった場合は症状出現・改善のトリガーを知りたいので,もう少し詳しく病歴を聴取しましょう.


構音障害の出現は早朝に多く,朝食後には改善していたそうです.

またこの際には四肢の脱力感も伴っていました.

救急外来で「一過性脳虚血発作」として帰宅となった際にも,糖入りの補液がされた後に改善していたようです.血糖値は測定されていませんでした.


もうおわかりですね.診断は低血糖発作です.

血糖値はなんと20mg/dL台でした.




では,この患者さんはなぜ低血糖発作を起こしたのでしょうか?



さらに聞くと,ここ数年でどんどん体重が増加してきていたとのことでした.

入院時の血中インスリン濃度が高値であり,入院後に行った画像検査でインスリノーマの診断となりました.




診断:インスリノーマによる低血糖発作



以下,復習です!


低血糖の原因

★空腹時の低血糖

・薬剤性:経口血糖降下薬・インスリン,キノロン系抗菌薬,ST合剤,シベンゾリン

・敗血症

・肝硬変

・飢餓

・甲状腺機能低下症

・副腎不全

・インスリノーマ

・インスリン自己免疫症候群:アロプリノール,MMI,ロキソプロフェンなどが原因となり得る.-SH基があると抗体ができると言われている


★食後の低血糖

・ダンピング症候群:インスリンが分泌される頃には食物が通過してしまっているので,食後90分くらいに起こる

・反応性低血糖:Ⅱ型糖尿病の初期でみられる.インスリン分泌が遅延するため,食後3時間くらいで起こる


敗血症でなぜ低血糖になるのか?

炎症性サイトカインによる糖新生の低下,骨格筋におけるインスリン抵抗性↓,相対的副腎不全,エンドトキシンによるインスリン様作用(構造が近い)




難しい症例だったかもしれませんが,丁寧に紐解けば病歴だけで最終診断まで辿り着くことができたのではないでしょうか?

「血糖測ればいいじゃん」「画像撮ればいいじゃん」と思うかも知れませんが,疑っていなければ検査に踏み切れませんし,検査しても見落とします.

実際にこの症例も最初の救急外来受診時には低血糖を疑われなかったため,血糖値は測られていませんでした(本来脳卒中疑いはルーチンで測るべきかもしれませんが).




インスリノーマは非常に稀です.

この疾患を知るというよりは,アプローチの仕方を学んでいただければと思います.


 
 
 

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